【パナソニック汐留美術館】
「クールベと海展—フランス近代 自然へのまなざし」(~6/13)内覧会レポート

パナソニック汐留美術館では、2021年4月10日(土)~6月13日(日)までの期間、「クールベと海展—フランス近代 自然へのまなざし」が開催されています。4月9日にプレス内覧会が開催されましたので、その様子をお伝えいたします。

 

ナダール「ギュスターブ・クールベの肖像写真」(1860年頃)より

 

「ついに海を、地平線のない海を見ました。これは谷の住人にとって奇妙なものです」

 

これは、19世紀フランスを代表するレアリスムの巨匠、ギュスターヴ・クールベ(1819-1877)が22歳の時、初めて海を目にした時の心情を両親宛に綴ったものです。
この「奇妙なもの」の何が青年の心を捉えたのでしょうか。クールベは生涯をかけて海景画を描き続け、この大いなる自然の象徴と対峙してきました。生涯に描いた海景画は、なんと100点以上にのぼります。

本展覧会はクールベの海の絵画を中心として、故郷を描いた風景画や狩猟画や、モネなどの他の画家たちが海を描いた作品を含む約60点の作品を展観。海のみならず、自然そのものへのまなざしが大きく変化した時代に、クールベがいかにして「近代絵画の革新者」と呼ばれるようになったのか。その軌跡をたどります。

 

 

レアリスムの巨匠が描いた「奇妙な海」。

 

展示会場風景

 

国内外よりクールベの「海」を題材にした作品が集う



 

ギュスターヴ・クールベ 《波》( 1870年頃 姫路市立美術館蔵)。渦巻く波の写実性に心を奪われる

 

山に囲まれた小さな村で育った彼が初めて海を目にしたのが22歳の時。それから20数年後の1865年から1869年にかけて、クールベは毎年のようにノルマンディーの海岸に出かけ、生涯に100点以上の海を主題にした作品を残しました。

本展覧会では、国内外より11点のクールベの「海」を主題にした作品が一堂に会するほか、フランスからはオルレアン美術館より、サロン出品作と同じ構図で描かれた《波》(1870年)が出品されます。

 

 

海景画のほか、風景画や狩猟画も出品!

 

クールベは故郷フランシュ=コンテ地方の風景画を繰り返し描き、その革新性を示していた

 

第二章では、海と同様にクールベの主要な題材となった狩猟画も展示

 

ギュスターヴ・クールベ 《ブー・デュ・モンドの滝》 1864年 個人蔵

 

スイスとの国境に近い山間の地、フランシュ=コンテ地方オルナンに生まれ育ったクールベは、険しい断崖や小高い草原、洞窟の多い水源地、そして木陰の川が特徴的なこの土地を繰り返し描きました。

現実を理想化した絵画を否定し、のちにレアリズム画家と呼ばれることになるクールベが、いかにその素養を育んだのか?どのように自然を捉えていたのか?本展では海景画のみならず、彼の手掛けた風景画や狩猟画を展示することで、彼の表現のルーツを探ります。

 

 

印象派を代表するモネやブーダンなどの作家の作品も!

 

クロード=ジョゼフ・ヴェルネの《嵐の海》。畏怖の念を起こさせる海景画で、「クールベ以前」の海として代表的な作品のひとつ

 

ギュスターヴ・カイユボットは観光地となったノルマンディーの海を描いた(画面左)。右には最初期の水着(!)の展示も

 

モネやデュプレ、クールベと同時代の画家たちの描いた「海」が並ぶ

 

中にはこんなマニア心をくすぐるような展示も。帆船は19世紀以前の海景画に欠かせないモチーフのひとつだ

 

畏怖と崇高の対象であった海が、鉄道の発達によって身近なリゾート地としての海へ。18世紀から19世紀は、こうした「海」へのまなざしの大転換が起きた時期でもありました。

本展ではクールベの他にも、ターナーやリチャード・ウィルソンなどクールベ以前の画家たちの描いた風景画と、モネやブーダンなどの同時代の海景画家の作品を展示。その自然観の移り変わりとともにクールベと彼らの影響関係について明らかにしています。

 

 

展示作品紹介

 

ギュスターヴ・クールベ 《波》 1870年 オルレアン美術館

 

雲の合間から差し込む光が、一艘の小舟を照らす。

フランスのオルレアン美術館所蔵の《波》が来日。数ある《波》の中でも、この作品は前景の岸辺に打ち上げられた小舟を配置し、鑑賞者の視線が自然にそこに向かうように描かれているのが特徴。中景には岸に打ち付けられて白く泡立つ波がパレットナイフで質感豊かに表現されており、鮮やかな空の青色が雲の合間から覗いています。

 

 

ギュスターヴ・クールベ 《アルプスの渓谷》 1873年 株式会社三井住友銀行

 

亡命の日々、故郷を想う。

1871年、パリ・コミューンに参加したクールベはヴァンドーム広場の円柱を破壊した罪で財産取り押さえの憂き目に遭います。クールベはスイスへ亡命しますが、この山岳地方で彼は借金の返済のためのみならず、自身の幸福な思い出の反映として数々の作品を手がけます。

アルプス山脈を望むこの作品もそのひとつで、画面前景のごつごつした岩、その間を流れる急流、中景の生い茂る緑は画家の故郷オルナン近郊を彷彿させると言われます。亡命のさなか、日々目にするスイスの風景に故郷を重ね合わせて見ていたのでしょうか。

 

 

クロード・モネ 《アヴァルの門》 1886年 島根県立美術館

 

彼が見ていたのは門ではなく、揺れ動く光。

植民地化による海の重要性の増加、鉄道網の発達、社会的変化によるレジャーの発達など、さまざまな要因で「海」が身近な存在となった19世紀フランス。そうした「海」の変化は、同時代の画家たちのインスピレーションに大きな影響を与えました。

こちらは多くの芸術家を魅了したノルマンディー沿岸の「アヴァルの門」と呼ばれた断崖をモネが描いた作品。他の画家とは違い、モネはやや上からの視点で崖を捉えており、空と海との境界も曖昧です。「光の画家」と呼ばれたモネの関心が、崖ではなく、やはり水面に揺れ動く光の描写にあることが窺えます。

 

 

開催概要

展覧会名 クールベと海展—フランス近代 自然へのまなざし
会場 パナソニック汐留美術館
会期 2021年4月10日(土)~6月13日(日)※日時指定制
休館日 水曜日(※但し5月5日は開館)
※新型コロナウイルスの影響により、会期・時間変更の可能性があります。最新情報を公式サイトよりご確認下さい。
時間 午前10時~午後6時(ご入館は午後5時30分まで)
※5月7日(金)、6月4日(金)は夜間開館 午後8時まで(ご入館は午後7時30分まで)
料金 一般:1,000円、65歳以上:900円、大学生:700円、中・高校生:500円、小学生以下:無料
※障がい者手帳をご提示の方、および付添者1名まで無料でご入館いただけます。
URL https://panasonic.co.jp/ls/museum/exhibition/21/210410/index.html

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