東京・丸の内仲通りを中心とした丸の内エリアを舞台に、近代彫刻や現代アーティストの作品を展示するプロジェクト「丸の内ストリートギャラリー」。
2022年6月、開催50周年を記念して4年ぶりとなる新作の設置や一部作品の入れ替えが実施されましたので、新作を中心に展示の様子をご紹介します。
50周年を迎える、丸の内ストリートギャラリー
石畳と街路樹が美しい風景にアートが溶け込み、行き交う人々を楽しませる――。丸の内ストリートギャラリーは、三菱地所と彫刻の森芸術文化財団によって1972年から始まったアートプロジェクトです。
<丸の内仲通り>
洗練されたオフィスビルや商業施設、有名ブランドショップ、おしゃれなカフェなどが並ぶ丸の内仲通りをメインに、丸の内エリア(大手町・丸の内・有楽町)の各所に近代彫刻の巨匠や世界で活躍する現代アーティストの作品を展示。夜にはライトアップもしながら、人々のクリエイティビティを刺激するアートと一体となった街を演出してきました。
展示作品は数年ごとに顔ぶれが変わり、第43回となる今回は、1960年代から最新2022年の作品まで新作5点、継続作品2点、入れ替え作品12点の合計19点をラインナップ。展示は3年間を予定しているそうです。
<展示アーティスト>
H&P.シャギャーン、アギュスタン・カルデナス、イゴール・ミトライ、キム・ハムスキー、草間彌生、ジム・ダイン、ジュゼッペ・スパニューロ、澄川喜一、ティモ・ソリン、中谷ミチコ、名和晃平、パヴェル・クルバレク、バーナード・メドウズ、舟越桂、ヘンリー・ムーア、松尾高弘、三沢厚彦、ルイジ・マイノルフィ、レナーテ・ホフライト *五十音順
舟越桂《私は街を飛ぶ》など、丸の内ストリートギャラリーのために制作された新作5点が登場!
6月末、報道関係者向けにガイドツアーが開催され、新作を制作した舟越桂さん、中谷ミチコさん、松尾高弘さんら3名のアーティストも参加し、自作ついて解説しました。
丸の内仲通りビルの前には、日本を代表する彫刻家・舟越桂さんの《私は街を飛ぶ》があります。
木彫で神秘的な人物像を生み出すことで知られる舟越さんですが、今回は屋外展示ということで久しぶりのブロンズ像に挑戦したそうです。着彩したブロンズ作品としては自身の初作品となるとか。
頭部には本や教会などのモチーフが配され、これには「人間が大事にしているものを頭につけたい」という発想があったと話します。
本は言葉を象徴するものであり、舟越さんにとっては「人間がつくり出したものの中で最も美しいもの」。教会は、信じるものや拠りどころを表しています。また、その間にある並木道は、彫刻に距離や空間の広がりをもたせたいという意図があったとか。
人物像はカラフルで、設置場所の日の動きを考慮して影になる部分をあらかじめ青く塗ってしまうなどユニークな工夫も。性別を感じさせない、上品で凛とした表情で仲通りに佇んでいます。
喧噪の中で「人間が大事にしているもの」に思いを傾け続けるこの人物が、行き交う人々に何を語りかけてくれるのでしょうか。
新東京ビルの前にあるのは、中谷ミチコさんの《小さな魚を大事そうに運ぶ女の子と金ピカの空を飛ぶ青い鳥》。
中谷さんは主に、一般的なレリーフとは異なり凹凸が反転している立体作品を制作しています。本作は、粘土の原型を取り出した石膏の雌型をもとにした彫刻作品。1枚の紙をイメージした三日月形に湾曲する支持体に、魚の泳ぐ水をスカートに入れて大事そうに運ぶ妊婦の少女を凹みで表しています。
鑑賞者の視点の変化に合わせて表情や姿勢が変わっていく、空洞の少女。錯視により、鑑賞者は作品に見つめ返されているような感覚になり、本作においては見る者と見られる者の立場は曖昧に。凹凸によって「不在」と「実在」の揺らぎを巧みに操る中谷さんらしく、「そこにいないのにいる」、不在である少女が鑑賞者の存在によってその存在感を確立していきます。
背面は歪みをブロンズの鏡面磨きになっていて、凹型の1羽の青い鳥が飛んでいます。中谷さんは「観る人の姿や背景が作品に映り込み、鏡面の揺らぎによって現実世界も揺らいでいる。歪んだ虚像の中では、ここにはいない青い鳥だけがはっきり浮かび上がってくる」と見どころを解説。
パブリックアートを制作するに当たっては、「凹凸に起こる無数の反転が、見る人の身体を取り込みながら、作品と一人一人の間に結ばれる関係を『唯一のもの』とする場所にしたい」と考えたそう。ぜひさまざまな角度から体験してみてください。
映像、照明、オブジェクト、テクノロジー、インタラクションによる光のインスタレーションを制作している国際的アーティスト・松尾高弘さんは、大手町ビルのエントランスに《Prism”Dahlia + Peony”》を設置。丸の内ストリートギャラリー初となる室内展示の作品です。
エントランスの左右にアクリル板をルーバー状に立て、花のダリアとピオニーを模したオブジェクト群を配した、対で一つのインスタレーションとなっています。
オブジェクトはプリズムの色を帯びたシート状の樹脂で1枚ずつ成形したもの。シャープで力強さをもつダリアと、華やかでやわらかい印象をもつピオニーとで、空間に与える情感を対比的に構築しています。
透明ですが、表の通りに車や華やかな服を着た人が通ると、その色を取り込んで花に色が付きます。時間帯によっては太陽光で輝くほか、透過した光が床で虹色に広がる現象も見せるとか。
そんな本作を「形でもあり、現象でもある作品」だと解説した松尾さん。「光の作品は照明だったり映像だったりと、あくまで現象として形にならずに消えてしまいます。そこで、彫刻という概念で光を形にする作品を作りたいと考え、今回はひとつの形象として花をモチーフに選びました」と制作の背景を語りました。
発展を続ける街の風景に溶け込みながらさまざまに現象を変える、タイムレスな光のアート。リニューアルされた大手町ビルのモダンなインテリアとの共存も見どころの一つです。
丸の内二丁目ビルの前には、2人組アートユニット・H&P.シャギャーンによる、2004年にウィーンで制作した2枚の絵をもとにした新作《Matching Thoughts》が置かれています。
マテリアルは古く、造形も革新的ではないものの、ディテールやそのなかに潜むエスプリに彼らがもつ近代彫刻へのリスペクトが込められているとか。対比するように置かれた二つの立体の間には2.1センチの隙間があり、これは緊張感をもたせる意味で作家がこだわった距離だといいます。立体は頭部のように見えますが、にらみ合っているのかもしれません。
また、丸の内ストリートギャラリーの展示作品は、台座と照明も可能な限り作家の意見を反映しています。本作においては作家の「軽やかな台座にしたい」という希望を受けて、沖縄の花ブロックを使用。立体作品とのコントラストも見どころです。
感覚に接続するインターフェースとして彫刻の「表皮」に着目し、セル(細胞・粒)で世界を認識するという独自の概念を軸に、彫刻の新たなあり方を追求している名和晃平さんの《Trans-Double Yana(Mirror)》は丸ビル前に設置。
3Dスキャンしたポリゴンの表面にエフェクトをかけ、そのデータを再び実体化する「TRANS」は2012年から続く彫刻シリーズで、本作はその初期の作品です。今回のストリートギャラリーのために台座を新たにし、新作として展示したとのこと。太陽光を浴びて、自ら発光しているかのようにキラキラ輝いていました。
リアルに存在する身体と、加工された情報データによって形成された身体が溶け合うように重ねられることで、現実とヴァーチャルの境界は曖昧に。どちらが実像でどちらが虚像なのか。制作から10年経った今、現代における存在のリアリティーを再び問いかけます。
草間彌生《われは南瓜》など、2点が継続展示
継続展示されている作品にも注目です。二重橋スクエア前に置かれた前衛芸術家・草間彌生さんの《われは南瓜》は、草間さんにとって初の石彫作品として2013年に制作されました。
カボチャは草間さんが好んで使うモチーフ。本作を展示するにあたっての過去のインタビューでは「カボチャはものすごくユーモラスでかわいらしいが、人格のような人間のような魂をもっていて、私たちに語り掛けてくる」とその魅力を語っています。
カボチャは草間さん自身の被写体としての表現でもあり、半永久的に残る素材(黒御影石)にカボチャ(草間自身)を重ね合わせて永遠の命を作品に吹き込み、「永遠にこの場所に愛を送り続けたい」という想いを込めたのだとか。
動物を等身大で彫ったユーモラスな木彫作品「Animals(アニマルズ)」で知られる三沢厚彦さんの《Animal 2017-01-B2》は、丸の内オアゾの正面入り口に設置されています。
本作はブロンズで制作されました。愛らしさと獰猛さ、クマの両極化するイメージの中間的な表現がされていて、決して威嚇することなく、様々な目的で大都会を行き交う人々を俯瞰して眺めています。
なお、丸の内ストリートギャラリーの展示ではありませんが、丸の内オアゾ内にはピカソの《ゲルニカ》の世界に2枚しかない貴重な原寸大複製陶板が展示されていますので、鑑賞の際はぜひ併せてご覧ください。
入れ替え作品は12点。高さ7Mの大作も!
入れ替え作品は12点あり、なかでも目を引くのは、丸ビル前にある《サモトラケ゚のニケ》(勝利の女神像/紀元前190年頃)をオマージュしたパヴェル・クルバレクさんの《ニケ 1989》。高さ7Mにも及ぶ大作です。現代によみがえった勝利の女神像は、鍛冶屋生まれのアーティストならではの造形で、天に翼をのばす凛とした姿が美しいです。
少しギョッとしたのは、新丸ビル前のイゴール・ミトライさんの《眠れる頭像》。人体の断片的な彫刻でよく知られる作家で、本作も頭部のみ、ギリシャ彫刻のような端正な顔が包帯で覆われ、緊張感を帯びていますが不思議と街の風景に溶け込んでいます。
ミトライさんは包帯が巻かれたこの人物を自分自身だと表現していたそう。外を見たくないのか、自分を見られたくないのか。包帯は緩まないまま、彼は静かに自分自身を見つめ続けています。
丸の内永楽ビル付近に置かれたルイジ・マイノルフィさんの《巨大な町》はひときわユニーク。
古代イタリアにアイディアを得て制作されたという本作は、遠くからはふくよかな人の形に見えますが、近寄ると全体に窓状の空隙が無数に施されていることに気づきます。それはまるで古代の城塞か、中空都市のよう。夜には作品の内側から光を照らし、窓から漏れるあたたかい街明かりを幻想的に表現しています。
マイノルフィさんは、制作したオブジェの多くに本作と同様に足をつけているとか。「逃げてもいいよ」とその彫刻に自由を持たせる意図があるそうで、確かに人の見ていないところで勝手に動き出していそうな、やんちゃな雰囲気がありました。
そのほかの展示作品は以下のとおり。
紹介したとおり、夜間はライトアップもされるので、画像で紹介したものとはまた違った作品の魅力に触れることができますよ。新しいラインナップになった丸の内ストリートギャラリーで、都市の中のアートの面白さにぜひ触れてみてください。
「第43回 丸の内ストリートギャラリー」実施概要
展示期間:2022年6月~2025年5月(予定)
展示場所:丸の内仲通り、丸の内オアゾ前、大手町ビル
主催:三菱地所株式会社
監修:公益財団法人彫刻の森芸術文化財団
公式サイト:https://www.marunouchi.com/lp/street_gallery/
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