2022年10月26日、銀座エリア最大級の複合商業施設「GINZA SIX」の中央吹き抜け空間に、ビジュアルアーティスト、ジャン・ジュリアンさんによるコミカルなキャラクターたちの大型インスタレーション《The Departure》が登場しました。
展示期間は2024年春(予定)まで。
展示初日、取材陣に対してアーティスト自身によるアートレクチャーが行われました。
ジャン・ジュリアン初の宙に浮くインスタレーション《The Departure》が出現
今年4月にオープン5周年を迎えたGINZA SIXは、洗練された食やファッション、アートなど、「銀座から世界へ」をテーマに「ここにしかないもの、ここでしか味わえない体験」を提案する東京の文化発信拠点です。
館内各所で感性を刺激するインスタレーションやアート作品に触れることができますが、なかでもGINZA SIXの象徴ともいえる中央吹き抜け空間では、これまで草間彌生さんをはじめとする世界的アーティストやクリエイターのプログラムが展開されてきました。
このたび登場したジャン・ジュリアン(Jean Jullien)さんの新作《The Departure》は、吹き抜けアートの8代目になります。
ジュリアンさんは1983年生まれ、フランスのナント出身。イラストレーションを中心に写真、動画、衣服、インスタレーションの制作など幅広い分野で活動しながら、New York Times、National Geographic、The Guardian、VOGUEなどさまざまなクライアントに作品を提供している気鋭のビジュアルアーティストです。
ロンドンを拠点として世界中の美術館やギャラリーで精力的に作品を発表していますが、《The Departure》はパブリックアートとして大規模なスケールに挑戦した、アーティスト初の宙に浮くインスタレーション。
GINZASIXの2階から6階まで広がる吹き抜けを、紙のようにペラペラの体をもつコミカルなキャラクターたちが空飛ぶ絨毯で縦横無尽に飛び回っています。ジュリアンさんのドローイングの魅力である独特のタッチは彫刻作品でも健在。全体のサイズは横18m、縦8m、奥行き10mほどあるそうです。
絨毯に乗る彼らの名前はPAPER PEOPLE(ペーパーピープル)。2021年に東京・渋谷PARCOで開催された個展「PEPER PEOPLE」で生まれました。
ジュリアンさんはここ数年でペインティングも手掛けるようになりましたが、制作の中で「キャンバスに絵を描くようになり、(放っておかれた)ドローイング作品が寂しがっているのではないかという想いがあった」とのこと。
そこからPEPER PEOPLEの「自分を生み出そうとしたクリエイターに見捨てられたことに気づき、心細さから、紙で仲間を生み出そうと閃いたキャラクター」という設定が生まれたそうで、これはメアリー・シェリー著『フランケンシュタイン』からインスピレーションを得たといいます。
故郷ブルターニュの美しい海やオモチャで遊ぶ子供など、何気ない日常の情景を慈しみ、ユーモラスに描き出した作品を多く制作してきたジュリアンさんらしい優しさの溢れるエピソードですね。
実際に渋谷PARCOの個展では、独りぼっちだったブルーのPAPER PEOPLEがオレンジのキャラクターを描いて仲良くなる様子が立体作品として展示されていました。その後、PAPER PEOPLEたちはフランスや韓国を旅しましたが、そのたびに仲間を増やしていった様子。再び東京に戻ってきたら、ずいぶんとカラフルで賑やかになっていました。
紙から生まれたキャラクターという設定ですが、作品自体は金属製で、アルミニウムなど、強度と安全性を考慮したさまざまな金属素材を使用しているとのこと。
「もう一度東京に戻ってきて、今度は地面から飛び立って世界に出発していく」というコンセプトで制作されたそう。筆者はシンプルに、さまざまなジャンルのショップが立ち並ぶGINZA SIXを「次はあのお店に行ってみよう!」と探検しているようにも、「出発(The Departure)」の名前の通り、「銀座から世界へ」をテーマにするGINZA SIXを体現しているようにも見えました。
もともとPAPER PEOPLEはジュリアンさんの化身として誕生したそうですから、世界中を飛び回るジュリアンさんに「魔法の絨毯で移動したい」という気持ちがあったのかも?
などと想像していたら、実は「マンネリ化しがちな都会の日常生活から抜け出して田舎の風景を見に行こう!」 というメッセージも込められていたというのが面白いところ。
360度、どの角度からも作品が楽しめますが、とくにエスカレーターで移動しながら鑑賞すると、より作品のもつ浮遊感を味わえるのでおすすめです。
子どものように自由に創作活動を楽しむPEPER PEOPLEたち
最初に生まれたブルーのPEPER PEOPLEはややメランコリックな性質をもっているそうで、不安げな表情を浮かべていますが、これは飛び立っていくことへのポジティブなドキドキ感を表現しているそうです。
今まさに紙から生まれた仲間をPEPER PEOPLEが優しく見守っていますが、絨毯の裏面をよく見れば、PEPER PEOPLEたちが残した仲間のドローイングや、彼らが絨毯を移動手段に決めるまでのドローイングのプロセスが残っていました。中には×印をつけられたものもありますが、これもけっしてネガティブなものではないとジュリアンさんは語ります。
「失敗したものも厳密には失敗したものではなく、その中から新しいものが生まれることもあるし、後になって生まれるものもある。パーフェクトなものはないということを表しています」
「PEPER PEOPLEたちの中にも、人間のようにどんどん自分を良くしていきたいという想いがある。とてもポジティブに、失敗することを恐れずにどんどんクリエイションしています」
と話すジュリアンさん。新幹線でも飛行機でもなく空飛ぶ絨毯というチョイスが、生まれたばかりの彼らの「これが一番楽しそう」「なんでもできるぞ!」という、常識に縛られない子どものような万能感が感じられます。
見ているだけで、PEPER PEOPLEたちの無限に湧き出る創造意欲がこちらにも伝染してくるようです。
ジュリアンさんは、
「紙の切り抜きのシンプルさは、誰もがアクセスができ子供の頃の遊びを思い起こさせますが、時として日常的なスケールを超えて見るものを新鮮な驚きの中に引き込むことがあります」
「アートギャラリーや美術館と違い、こういった商業施設でのインスタレーションというのは、展示を知らないで来られる方もいらっしゃいます。そのような偶然に作品に出会った方の純粋な驚きを楽しみにしています」
と作品へ期待を寄せますが、本作はすべての人々へ「世の中に完璧なものはない。失敗だと嘆かずに、これは本当に失敗なのかと問いかけることも時には大切なのでは?」と心を寄せるジュリアンさんからのエールのようにも思えました。
GINZA SIXには各階にソファが設置されているので、ゆっくり作品を鑑賞できます。また、PEPER PEOPLEのアニメーションも館内各所で放映中。
大型インスタレーション《The Departure》の展示は2024年春までの予定となっています。
【GINZA SIX 基本情報】
所在地 | 〒104-0061 東京都中央区銀座6丁目10-1 |
アクセス | 東京メトロ 銀座線・丸の内線・日比谷線「銀座」駅から地下通路にて直結 駐車場完備(お買い上げ金額に応じたサービス有) |
営業時間 | ショップ・カフェ(B2F~5F)10:30~20:30、レストラン(6F、13F)11:00~23:00 ※一部の店舗、レストランは営業時間が異なります。 ※詳細は公式ホームページをご確認ください。 ※営業日時が変更になる場合があります。 ※店内の状況などにより、予告なく入店規制を行う場合があります。 |
休館日 | 不定休 |
TEL | 03-6891-3390 (GINZA SIX総合インフォメーション 受付時間10:30~20:30) |
HP | https://ginza6.tokyo/ |
※本記事の内容は取材日(2022/10/26)時点のものです。最新の情報と異なる場合がありますのでご了承ください。
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